中々衝撃的な状態ですが、前夜に
「全壊判定を受けても伝統的な工法で建てられた日本の木造住宅は修理が可能だ」
と目黒研の方々に酒の勢いで啖呵を切ってしまった手前少し書かせていただきます。
まず、これでも直せるか、と言う問いに対してはYESです。が、お金がかかります。現代の日本では費用対効果を考えると建て壊されるでしょう。RCやS、集成材造と違って無垢の木造は軸組みが折れても根継ができるので、やってやれないことはないです。ただ極論をいうとお金をかければRCもSも直せるという話にもなりますが。
さらに建物を見ていくと正面左側に大きく傾いている二階建ては隅が通し柱になっていません。このため胴差から上が一階から切り離されて傾いています。二階か、もしくは二階建ての部分を後年増築した可能性があります。また、二階の壁面にはトタンの下に筋交いも見られ、戦後の工事である可能性が高いです。
平屋の主屋を見ていくと、切妻の玄関ポーチがばったり倒れていますが、構造上重要でないのは言うまでも無く、この様な形式のポーチを東北の平入りの民家に増築することが流行ったようで 、(注1)主屋との接合が甘く、後年の増築の可能性が高いです。
さらに内見をしたところ天井が張られていたため何ともいえませんが民家のオエに見られるような梁組みが確認できませんでした。
このため、平入りの茅葺を瓦に拭き直した民家に玄関ポーチを付けるのが流行った時期に、同じような構成で新築した比較的新しい住宅建築である可能性もあります。地方では戦後でも左官職人が残っていれば土壁が用いられた可能性があり、土壁=戦前の建物とは言い切れません。しかし物資が乏しく戦後は軸組みが細くなった可能性は高い。柱寸法も目視で3.5寸前後と細く、北陸の民家基準であれば残念ながら立て壊しをお勧めする物件と状態です。
が、もしどうしても直して住みたい、というお客さんがいたら、平屋の比較的健全な主屋の軸組みのみ残して、玄関ポーチを付けたければ柱を太めに復原し、基礎を打ち直して耐震改修します。しかし東北の民家については勉強不足で、今回見られた伝統的工法の木造建築は3棟とあまりにも少なく、比較材料が少なすぎるのであくまで中山のつたない私見として参考程度にご理解ください。またご批判、ご意見等ありましたらお知らせください。
(注1) 白井 沙知 他「伝統的民家の改変に関する研究
: 宮城県の茅葺民家を事例として」
日本建築学会東北支部研究報告集2009 など参照。
これで一体何が言いたいのか、と言うことですが
1 被害認定で解体が優遇されすぎている。
基礎支援金+解体費用のみお金を出すのではなく、
基礎支援金+耐震改修費用もあってしかるべき。
(解体か耐震改修かを持ち主が選択可能)
2 すべてが難しいのであれば、歴史的に、
もしくは町並み形成に重要と判断される建物のみでも
基礎支援金+耐震改修費用を受け取ることができる体制を作る。
3 一口に伝統工法、などといっても設計や意匠、素材や状態などの
良し悪しがあり、判断や改修には専門の知識が必要。
これは伝統工法以外の近代建築、現代建築などにも言え、
歴史家が町並み形成に重要な建築の診断士として関わる可能性がある。
4 できれば震災が起きる前に建築の悉皆調査を地域ごとに行い、
築年数等基礎調査を済ませて被害認定の基礎知識として
使える様データベースを構築すべき。
5 「伝統工法」はそもそも影国社の『建築大辞典』にも定義が無く、
研究者によっても壁重視や軸組み重視で意見が分かれている。
早急に定義と工法の優良性やデメリットを整理し、
現場で使える診断法や耐震改修法をマニュアル化すべき
(京都・金沢では進んでいる)
補足 5.の理由から文中の言葉の定義もあいまいです。すいません。
以上のような事で、罹災した街並みを守る、記憶を残す、ということが現実的に可能になるのではないでしょうか。(中山)
